社内ベンチャーの成功事例にみる成功のためのポイントとは

  • 2019年1月30日

成功する社内ベンチャーの事例を分析すると、いくつかの共通点を見つけることができます。それは新規事業に対しての思い入れであり、周到な計画をもとにさまざまな関係者をつないでいくトップの存在です。ここでは社内ベンチャーの基本と魅力的な事例やポイントを見てみましょう。

社内ベンチャーとは

冒険のことを英語でアドベンチャー(adventure)といいます。「社内ベンチャー」も同じように冒険的な(場合によっては投機的側面も)面を強調した和製ビジネス表現です。既存の価値観から離れた新しいサービスや商品を展開しようとする中小新興企業を日本では「ベンチャー企業」と呼びます。同じような新規性を組織内で実現し、得られた成果を組織の活性化や将来性へつなげようとするものが「社内ベンチャー」です。多くの社内ベンチャーは、いわゆる大企業の新規事業提案制度などを利用して、その社員が立ち上げる独立性の高い組織となっています。創業時に「ヒト・モノ・カネ」と呼ばれる経営資源の獲得に奔走する必要がある一般の起業家と違い、社内ベンチャーにはその心配がありません。企業が提供する潤沢な経営資源を利用可能だからです。商品開発力のあるエンジニア、優秀な財務・法務担当者、最新の生産設備、そして莫大な資金援助が期待できます。さらに、営業活動において企業名を前面に出すことも可能で、販路拡大の壁もそれほど厳しいものではありません。その反面、企業からは数年という短期間での成果を要求されます。企業の潤沢なリソースを活用できるわけですから、当然の要求かもしれませんが、新しいビジネスを軌道に乗せることは、社内・社外関係なく困難を伴うものです。実際、社内ベンチャーの成功率がそれほど高くないといわれるのも、要求されるスピード感と現実の壁のギャップに関係していると考えられます。また、現実的な問題として全社的な協力が得られないこともあるといえます。一般に利益をあげている既存事業を担当する現業部門に経営資源を利用するプライオリティがあります。全社的な利益のためとはいえ、優秀な人材を社内ベンチャーに配置してもらうには相当なネゴシエーションが必要でしょう。(※1)

母子手帳アプリ「Kazoc」

移動体通信事業者のソフトバンクグループでは、2011年に新規事業提案制度を導入し「ソフトバンクイノベンチャー」を立ち上げています。これは戦略的シナジーグループ(要するにグループ会社)を2040年までに5,000社設立するという長期経営計画の実現のための制度です。具体的にはソフトバンクイノベンチャーを通じて5,000人の社長の育成が目標です。通常の新規事業提案とは異なり提案者が主体となり事業を推進するという点で、社内ベンチャーの代表的な事例といえるでしょう。書類審査から始まる3段階の審査を経て、最終審査に合格すると事業化検討案件となり500万円の予算がつきます。その後、3カ月から半年間程度の時間をかけて将来性の検討をします。この制度で事業化された案件(カッコ内は事業化年度)として初期のものは、WONDER!SCHOOL(2012)、PassMarket(2013)、マーケティングバンク(2013)などがありました。その後、得するモール(2014)、Smart IX(2014)、ハートコミックス(2015)、ユビ電(2016)などが採用されています。Kazoc(2013)はこの系譜の第2弾にあたるアプリで、子どもの成長や思い出をクラウド上に保存して、家族間で共有できるサービスです。スマートフォンを日常的に使いこなすパパ・ママ世代にも、また、孫の様子をほぼリアルタイムで共有できるため、おじいちゃん・おばあちゃん世代にも好評の傾向です。マーケティング的には、スマートフォンに抵抗があるシニア世代をソフトバンクのユーザーとしてソフト面から誘引する効果も期待されています。(※2)

スープストックトーキョー

“日本の社内ベンチャーの成功例を考えるとき、代表例として語られることが多いのが「スープストックトーキョー」です。これはスープの専門店として1999年に第1号店をオープン。2015年には70店舗を超え、2016年には分社化し「株式会社スープストックトーキョー」を設立しました。2017年からは日本航空国際線での食材提供も行い、リサイクルショップ・ファミリーレストランなどへの事業多角化を推進中の企業です。2017年7月時点で代表取締役会長を務める遠山正道氏が三菱商事の社内ベンチャー第1号として起業しています。遠山氏は三菱商事の外食サービス事業ユニット所属だったのですが、フライドチキンを製造販売する企業に出向した際に「ペルソナマーケティング」の手法を使って事業計画を策定しました。ペルソナマーケティングとは、自社商品やサービスを使うと想定されるモデルユーザー像を詳細に設定し、そのニーズを満たすような商品やサービスを開発・展開する手法です。ちなみに、スープストックはペルソナマーケティングの代表的な成功例としてもよく取り上げられます。その計画を高く評価した出向先企業社長の推薦などもあり、三菱商事内の社内ベンチャーとして創業し、第1号店をお台場ビーナスフォートにオープンしたという経緯があります。社内・社外を問わず、一般的なベンチャー企業は効率重視の側面が強いといわれています。そのなかでもスープストックの成功と展開の例は、ユニークな事業をビジネスとして成立させる挑戦的な試みとして注目を浴び続けています。
(※3)

スポーツクラブ・ルネサンス

フィットネスクラブ業界はもともと社内ベンチャーから発展したものが多いといわれています。100店舗を超える直営店を抱える「スポーツクラブ・ルネサンス」も、大日本インキ化学工業株式会社(現DIC株式会社)の社内ベンチャーとして創業しています。創業者であり会長の斎藤敏一氏(2017年7月時点)の社内テニスサークルを発端とし事業化され会社を設立しました。1979年に幕張にテニススクールとして1号店をオープンしています。「事業は小さく生んで大きく育てる」という斎藤氏の信念の元、1981年にはフィットネスクラブとして多角化してゆきます。「小さく」という戦略は、リスクを最小化する効果もあり、同時に実験的な運営を可能にしています。変化に柔軟に対応するフットワークの良さはベンチャーの基本ですが、その遺伝子はしっかりと受け継がれているようです。斎藤氏によれば、社内ベンチャーについて、DIC株式会社には新規性や自由な発想を尊ぶ社風があったことも、ルネサンスの成功に大きく寄与したとのことです。(※3)

社内ベンチャー成功のポイント

社内ベンチャーの場合、新規事業の提案者がほぼそのまま実行者になります。そうなると、成功事例が示すように有言実行型の資質を持つトップがいることが成功するための必須条件となるでしょう。そもそも社内ベンチャーには既存事業のための強固なシステムのなかから、その既存のシステムを凌駕していくことが期待できます。場合によっては破壊するくらいの勢いのあるものを生み出す役割を期待されているわけです。トップには困難な状況をいとわず、かえって楽しみながら、粘り強く目標に向かう気持ちの強さも必要でしょう。しかしビジネスのフィールドで戦うわけですから、計画性も兼ね備えている必要があります。また、仕事を的確に分配してコラボレーションができる協調性も重要です。深い知識と洞察を持ち、常に斬新な切り口で問題解決に対峙していきましょう。共同者を巻き込んでいく能力こそが、社内ベンチャーを成功に導くトップが備えるべきプロフィールといえるでしょう。(※4)